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ユダヤ陰謀論(国際金融資本陰謀論)の矛盾①(※①の補足)(ディープステートの定義)

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昨日(1月22日)、チャンネル桜に出演した伊藤貫氏が「ディープステート」という言葉を使用していたが、人によって、この言葉の意味(定義)が異なるので、伊藤氏(やトランプ)が言うディープステートと、馬渕睦夫氏や林千勝氏が言うディープステートとの違いを明確にしておきたい。

伊藤氏が番組内でディープステートとして挙げていたのは、司法省、CIAなどの米国の官僚、アメリカの資本家、アメリカの政治家(共和党民主党両党)、アメリカのマスコミである。

一方、馬渕氏や林氏が言うディープステートは、伊藤氏とほぼ重なるが、資本家の種類が微妙に異なる。

伊藤氏は、アメリカの資本家(ユダヤアメリカ人が多い)と表現したが、馬渕氏はアメリカ人に国籍を限定しないユダヤ系資本家(ロスチャイルドなど)、林氏はロックフェラー系資本家とアメリカ人に国籍を限定しないロスチャイルド系資本家としている。

 ロスチャイルドやロックフェラーというふうに資本家を特定しているところと、ロスチャイルドに関しては、アメリカ人に限定せず、アメリカ国外の資本家も含めているところが、伊藤氏とは異なる点である。この(ささいな)相違点が、両者の考えを根本的な部分で異なるものにしている(※後述)。

それ以外に異なる点を確認するために、両者の主張を比較してみよう。

まず伊藤氏の場合は、アメリカによる世界支配(一極覇権)を目指すという国家戦略に基づき、この資本家たち(ネオリベとも表現している)とネオコンが一体となり、世界をアメリカの軍事力で支配することによって、アメリカ人の資本家がお金儲けできるように世界を作り替えていくというものである。

アメリカの世界支配戦略については、下記の記事に書いた。

uipkmwvubg9azym.hateblo.jp


一方、馬渕氏や林氏の場合は(※両者の主張は同一ではないので以下の記述はどちらかだけが主張しているものも含む)、この特定の財閥系資本家が米国を支配下に置くのみならず、全世界をすでに支配下に置いているというものである。

だから、ソ連を作ったのも彼らであるから、米ソ冷戦は軍需産業が儲けるためのお芝居(茶番)であり、北朝鮮を裏で操る(バックで支える)のも彼らであるから、北朝鮮は脅威ではないし、中国を作ったのも彼らであるし、EUを作ったのも彼らである、などと主張し(※これらは伊藤貫氏の主張、つまり、国際政治学での説明とは全く異なるものである)、彼らの目標は、世界をグローバル化して(共産化に等しい)、自分たち以外の人々を家畜化することであるとしている。

目的とするところが世界支配である点は両者とも同じだが、それ以外は異なる。

1つ目の異なる点は、伊藤氏の場合、世界支配を目指しているとしているが、馬渕氏と林氏は、すでに世界を支配してる(or これまで世界を支配してきた)としているところである。

国際政治学では短期間、大英帝国やナポレオン時代のフランスなどの特定の国家が世界を支配していたことが過去数回だけあったとされているので、馬渕・林氏が主張するような国家ではないユダヤ系資本家グループが世界を支配できるということは否定されるし、何かの組織が長期に渡り世界を支配し続けているということもあり得ないことになる(論理的に矛盾する)ので、否定される。

つまり、伊藤氏の主張は、国際政治学の枠組み(思考のフレームワーク)の中に納まる(=論理的である)が、馬渕・林氏の主張は、国際政治学の論理では説明できないものである(非論理的である)。


2つ目の異なる点は、伊藤氏の場合、資本家と政治家や官僚は共犯関係(癒着している関係)であるが(※資本家が全てを支配下に置いているとまでは言えない)、馬渕氏・林氏の場合、資本家だけが絶対的な権力を持ち、全てを支配下に置き、全てを取り仕切っているとしているところである。

これも1つ目で指摘したのと同じ理由により、伊藤氏の主張は、国際政治学の枠組み(思考のフレームワーク)の中に納まる(=論理的である)が、馬渕・林氏の主張は、国際政治学の論理では説明できないものである(非論理的である)。歴史の教科書にハリマンなどが出てくることもあるが、それよりもはるかに政治家が多く登場することを思い出せば、非論理的であることが分かるだろう。

これに関しては、①の記事で下記のように書いた。

人を騙すコツは、99%の真実(世界を支配する者がいる)の中に1%の嘘(世界を支配する者はユダヤ系資本家である)を混ぜ込むことである。ここで注意していただきたいのは、ユダヤアメリカ人の資本家の一部が多額の政治資金を供給することで米国政治に大きな影響力を行使していることは事実である。しかし、この事実と、ユダヤ系資本家グループが世界を支配したり、アメリカを乗っ取っているという(ウソ)話とは、同じではない。この違いについては動画を作っているので関心のある方は是非見ていただきたい。

nishibesusumu-itokan-no-shisou.tokyo

 

3つ目の異なる点は、伊藤氏が資本家の動きのベースにはアメリカによる世界一極化戦略という国家戦略があるが(※①の記事に書いたが、それを証明する機密文書がある)、馬渕氏・林氏の場合は、国家戦略ではなく、資本家グループによる合意のようなものである(※それを証明する証拠はない)。シオン議定書偽書であることは前回の記事で書いた。

これも1つ目と2つ目と同じく、伊藤氏の主張は、国際政治学の枠組み(思考のフレームワーク)の中に納まる(=論理的である)が、馬渕・林氏の主張は、国際政治学の論理では説明できないものである(非論理的である)。

ここまで「国際政治学の論理では説明できないもの=非論理的」と何度も書いたが、この意味は、国際政治学で見いだされた論理は世界中の多数の国際政治学者によって、その論理性が議論・検証を経て認められたものだから、「国際政治学の論理に合致するもの=論理的」と言えるということである。逆に、馬渕氏、林氏の主張には、そのようなプロセスを経ていないものがいくつも含まれている。

また全体を通して言えることは、伊藤氏の主張にはそれを証明する機密文書などの証拠があるが、馬渕氏と林氏の主張には、それを裏付ける証拠がない(想像や推測による)ものが混じっているということである。このことについても、伊藤氏の主張は、論理的であるが、馬渕・林氏の主張は、非論理的であると言える。

以上をまとめると、 伊藤氏の主張するディープステートと、馬渕氏と林氏の主張するディープステートは、構成員が重なるから、一見するだけだと同じもののように思えるが、その構成員と資本家との関係性、その資本家の動機、その資本家の種類(その資本家が何者であるのか)、が違う。

もっと簡潔に言えば、伊藤氏の言うディープステートとは、エスタブリッシュメント層、つまり、アメリカ国内の既得権益層である。一方、馬渕氏と林氏の言うディープステートとは、全世界(あらゆる国家)を支配する財閥系ユダヤ(ロックフェラー系)資本家と、彼らに支配される各国の指導層たちの集合体である(※後者のディープステートについては、その存在を証明する証拠がない)。


前者のディープステート(=アメリカの既得権益層)は現実に存在するから陰謀論ではないが、後者のディープステート(=ロスチャイルド系資本家+ロックフェラー系資本家+EUを含め、全世界の各国の既得権益層が一枚岩となったもの ※林氏はロスチャイルド系とロックフェラー系が対立しているということも言っている)は、その存在を証明できる証拠がないから、「このディープステートが世界を支配している」と言うと、陰謀論(うそ話)になる。

チャンネル桜のコメント欄を見ると、両者の区別が付かない人がかなり多いようだ。後者の陰謀論と一緒くたにすることは、対米従属の強化につながってしまうから、ディープステートという言葉の定義をより明確にしてもらいたかった(国際金融資本という表現ではなく、アメリカの資本家と表現されていたので、「アメリカの」を強調しようという意図は感じられた)。

最後に、より大きな視点から見た場合の両者の違いを見てみよう。

最初に指摘した違いであるが、伊藤氏は資本家をアメリカ(人)の資本家としているが、馬渕・林氏は、アメリカの国籍に限らない、無国籍のユダヤ系の資本家・ロスチャイルド財閥を資本家としている。

また、すでに指摘した違いであるが、伊藤氏の場合、この資本家たちは、アメリカの一極覇権という国家戦略に基づいて動いているが、馬渕・林氏は、米国とは無関係の国家の枠を超えた資本家グループ(ネットワーク)の合議に基づいて動いているとしている。つまり、前者は国家の枠に縛られているが、後者は国家の枠に縛られていない。

この2つの違いに共通していることは、伊藤氏の場合、アメリカという国家をベースにし、その枠組みの中でアメリカ人の資本家が動いているが、馬渕・林氏の場合は、アメリカという国家の枠を超えた領域で、無国籍の資本家が動いているという点である。

これを別の言い方をすれば、伊藤氏は国際社会の動きを主権を持つ国家と国家とが自分たちの利益(国益)を巡り、競い合うという国際政治学フレームワークに基づき考えているが、一方、馬渕・林氏は、国家主権というものが、形だけは存在するが、その実体はなく、国際金融資本家が、国家の枠を超えて(国家主権を無効にしてしまうほど、国家を支配し)、国際社会のほとんどすべてを取り仕切っていると考えているということである。

馬渕氏の「すべてウォール街が決めているのだから、国際政治学を学ぶことなどバカらしい(国際政治を一生懸命勉強している方はえらいと思うが、そのようなことは無意味)」という発言(※チャンネル桜主催の沖縄講演会での発言)は、両者の考え方の根本的な違いをよく表しているだろう。 

 

また、この考え方の根本的な違いにより、伊藤氏にとっては、日本の核武装を妨害している米国は日本にとって対峙すべき悪であるが、馬渕・林氏にとっては、アメリカは無国籍の資本家たちに乗っ取られた犠牲者(日本人にとって信頼できる友人)になるのである。

また、中国という脅威に対する解決策は、伊藤氏は日本の自主核武装(=反「対米従属」)であるが、馬渕・林氏にとっては、中国も敵わないほどの強大な力を持つユダヤ系資本家に逆らわずに従うことが日本の国防のためには安全策になり、搾取されるのは嫌だと思いつつも仕方がないと諦め、その資本家が支配するアメリカに従うこと、つまり、対米従属が解決策(望ましい防衛政策)になるのである。そして、同時に、精神武装によって、ユダヤ系資本家たちの支配を見抜くことによって、彼らの搾取(支配)を阻止できると説く。悪玉である無国籍の資本家は他国に容易に移動してしまうから、核武装をしても無意味だと考えている。そして、彼らに支配されているということに気が付きさえすれば、その搾取から解放されると信じているようだ。だから、彼らにとって、重要なのは核武装ではなく、精神武装なのであろう。

しかし、その結末は、米国に見捨てられ、日本が核武装しないまま、東アジアに丸腰で取り残されるという悲劇的なものになる。

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馬渕・林氏の言説を信じることは、日本を滅亡へと導く


別の言い方をすれば、伊藤氏はリアリスト思考(現実主義)、馬渕・林氏は、国際社会を正義と悪という二元論で見る理想主義であり、寄らば大樹の陰という思考のバンドワゴン・巧妙な対米従属思想、巧妙な親米保守思想である。

馬渕・林氏の主張はしばしば「証拠はありませんが、○○だと確信しています」とか、「~だと思います」というものになるが、想像力がたくましく、小説家としても十分にやっていけるように見える。彼らのディープステートも、その存在を証明する証拠はなく、しばしば突飛であり、空想に富んだものになっている。そして、それは100年前にヒトラーが信じ、ホロコーストを引き起こした陰謀論と酷似しているのである。 

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ユダヤ陰謀論(国際金融資本陰謀論)の矛盾② 」はこちらです↓

nishibesusumu-itokan-no-shisou.tokyo

 

ユダヤ陰謀論者による対米従属への誘導の危険性については、下記の記事に書いた。

uipkmwvubg9azym.hateblo.jp

 

 

今回の記事に関連する動画はこちら↓(年齢制限はYoutubeの判断による)

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